尾道ラーメン物語② <38日目>新人ADの話
カメラマンは撮影が終わってホテルにカメラを置いた瞬間、その日の仕事は終了します。
しかし制作スタッフの仕事はまだ終わりません。
夕食をどこで食べるか?
その段取りをするのも基本的に制作の方がしてくれます。
制作の仕事は本当に大変だと思います。
僕はフリーランスのテレビカメラマンになってもうすぐ丸6年になりますが、以前は会社に13年間勤めていました。
21歳の時にテレビの仕事がしたくて、知り合いに紹介してもらった会社でした。
面接に行くと、この会社には「制作部」と「技術部」があることを知らされました。
どちらか希望はあるか?と聞かれましたが、
何も知らない僕は、
「両方とも興味があります」と答えました。
そして次の日から、僕は制作部のADとして働くことになりました。
「研修の研修」という形で、とりあえず上司のディレクターが1ヶ月様子を見て今後を判断することになりました。
番組の会議に同席したり、
編集している所を見学したり、
ロケ前日にカンペを書いたり、
収録した会話を文字に起こしたり、
コピー機の操作を覚えたり、
やる事が無い時は会社で雑誌や新聞を一人で読んでいました。
テレビは大好きでよく観ていましたが、テレビの仕事がどういうものか?
勉強したことも、考えたこともありませんでした。
僕は何をしていいのかわかりませんでした。
何かわからない事ある?と聞かれても、わからない事がわかりませんでした。
そして1ヶ月が経ちました。
会社の判定は・・・「不合格」
僕は制作部をクビになりました。
理由は仕事が何も出来ないから。
その後、僕は技術部でお世話になる事になるのですが、それはまた別のお話。
広島・尾道出張での出来事です。
僕たちスタッフは尾道駅近くのホテルに3日間滞在していました。
せっかく尾道に来たんだから尾道ラーメンを食べることになりました。
ディレクターはADにラーメン屋を探すように指示しました。
「はい、すぐに調べます!」
まだまだ勉強中の新人ADくん。一生懸命頑張っています。
ADくんがスマホで駅近くのラーメン屋を見つけたので、彼の案内でお店に向かいました。
がしかし!すでにお店は閉店していました。
すぐ別のお店を探すようディレクターに指示されたADくんが言った言葉は、
「すいません、営業しているラーメン屋はありません」でした。
ADくんはスマホで調べた結果、ないと判断して報告した訳ですから間違いは一つもありません。しかし彼はこの問題の「目的と手段」を全く理解できていません。
このケースの場合、「みんなで美味しい尾道ラーメンを食べること」が「目的」なんです。
しかし彼は「お店を探す」ことが「目的」になっています。だから出した答えが「営業しているお店がありません」になるんです。
ではADくんはどう考えればよかったのでしょうか?
それは「目的」を理解して「手段」を考えることです。
どうやってお店を探すのか?
見つけたお店は営業しているのか?
営業しているなら、この多人数で今から入れるのか?
そもそもそこの尾道ラーメンは美味しいのか?
いくつかの「手段」を考えてクリアしなければならないのです。
「目的」の視点でポイントを押さえて、「手段」の視点で行動する。
この考え方がADくんに身についていれば、おそらく結果はどうであれ違う答えになっていたでしょう。
ADもカメラマンもディレクターが求めている事を理解して、それ以上のことをする事が大切なんです。
ちなみにADくんの名誉のために言っておきますが、この話は彼がダメだったという事ではなく、誰しも失敗する時は「手段と目的」を勘違いしているって事です。
結局、僕が近所の焼き鳥屋にラーメンが食べられるお店を紹介してもらい、みんなで美味しい尾道ラーメンを頂く事が出来ました。
もしも、AD時代の僕に「手段と目的」を考えるチカラがあったとしたら、今頃は優秀なディレクターになっていたかも知れません。
ご精読ありがとうございました。