本気を出した覚えはない<104日目>
山に囲まれて川が綺麗な場所に、仕事で来ている。
昨日はお宿で一泊。
朝食まで時間があるので散歩に出かけてみる。
まずは近くのコンビニでホットコーヒーを買う。
基本的にコーヒーはブラックと決めている。
都会と違って空気がおいしい。
山の後ろから太陽が昇り、少しずつ朝日が差し込こんでくる。
風景を見ながら、コーヒーを飲みながらぶらぶら歩いていると、スイッチがONに切り替わる音がする。
昨日から気になっていたのだが、この土地にはかなりトンボが多い。
川沿いにもトンボがあちこちで飛んでいる。
あまりにも多いのでなんとなくトンボの写真を撮ってみる。
パシャリ。
わかりにくいかもしれませんが、葉っぱの上に止まっている黒いのがトンボです。
【ハグロトンボ】
地域によってはカミサマトンボとも言われています。
お盆の時期に現れて、自然あふれる小川や清流近くに生息しています。
もう少しアップのサイズで撮ってみよう。
右手にコーヒー、左手にスマホを持ちながら前に進むと一斉に飛んで逃げた。
猛獣のような気配に恐れをなしたのかもしれない。
トンボが多い。
今度は気配を消してゆっくり近づいてみるが、またしても僕に気づいて逃げていく。
テレビの方とはいえ、一応カメラマンという肩書を持っている。
僕に撮れないものはお化けだけだ。
地面に膝をつけてスマホを逆さまにし、地面スレスレのローアングルで構えてみる。
背景も意識して、山や川や空がはいる構図を作る。
狙いをさだめてパシャリ。
イメージしている写真ではない。
トンボとカメラの距離が遠いのだ。
スマホでは限界があるのでもう一歩近づいてみると、トンボが逃げた。
こうなると望遠レンズが欲しくなる。
動物など生き物を撮るときは粘りが必要なのだ。
トンボが止まるであろう葉っぱを予想して、体勢と構図を決めて、トンボがフレームに入ってくるのを待つ。
待つ。
待つ。
ひたすら待つ。
来ない。
全然来ない。
同じ体勢でいるのがキツくなってきたので、この作戦はあきらめる。
トンボが多い。
あたりを見渡すと動きが鈍いヤツが一匹いる。
どうやら写真を撮って欲しいらしい。
体勢を保ちながらそろーり近く。
腕に蜘蛛の巣が巻きついているが、そんなこと今はどうでもいい。
そろーり。
そろーり。
パシャリ。
ピントが合っていない。
もう一度パシャリ。
今度は背景が明るすぎる。
もう一度パシャリ。
パシャリ。
パシャリ。
パシャリ。
トンボが逃げる。
少し暑くなってきた。
背中が少し汗ばんでいる。
納得のいく写真は一枚も撮れなかった。
スマホのカメラだから。
ちゃんと準備していないから。
時間がなかったから。
本気を出していなかったから。
悪いのはトンボ。
トンボが動くからだ。
朝の準備運動はこれくらいにしておこう。
どうやら今日は調子がいいみたいだ。
ご精読ありがとうございます。