尾道ラーメン物語<37日目>お節介カメラマンの話
自分の事はそれなりにわかっているつもりです。
僕はお節介カメラマンなんです。
他人に認められたくて、正義感が強く、困っている人を放っておけない、寂しがり屋のかまってちゃんです。
この性格は幼少期に育った家庭環境が影響しています。
僕が5歳まで両親は自宅の一階で飲食店を経営していました。
毎日休みなく働いていたので、僕は二階で一人オモチャやぬいぐるみで遊んだり、テレビをずっと観ていました。テレビが好きなのはこの頃の影響だと思います。
「三つ子の魂百まで」
今改めて思い返してみると寂しかったんでしょうね。この時期にもうちょっと親の愛情をちゃんと受けていたらこんな性格にはならなかったでしょう。
でもこのお節介の性格。裏を返せば、よく気が利き、フットワークが軽く、ボランティア精神が強いんです。色んな人に気を使う事が多いテレビ業界は、もしかすると僕に向いていたのかもしれません。
広島・尾道出張での出来事です。
僕たち技術と制作スタッフは尾道駅前のホテルに3日間滞在していました。
1日目のロケが終わり夕食の時間です。せっかく尾道に出張で来たんだから地元っぽいご飯を食べようというわけで、男性ディレクターの指示により男性ADがスマホで駅近くのお店を検索します。
尾道といえば、そう「尾道ラーメン」です。駅前にはラーメン屋さんが点在しています。
一般的に尾道ラーメンとは、醤油ベースのスープに背脂が入った平打ち麺が特徴です。
ADの案内で向かったお店は暖簾に「尾道ラーメン」と書いていました。いざ食べてみるとスープは豚骨醤油で麺は細麺、背脂はちょっとしか入っていませんでした。
どう見てもこれは博多ラーメン風の尾道ラーメンでした。お店を出た後、暖簾をよくみると「豚骨尾道ラーメン」と書いていました。決して美味しくない訳ではなかったのですが、求めていた尾道ラーメンではありませんでした。
2日目。その日のロケも無事終わり、今日こそは本物の尾道ラーメンを食べたいということでADがスマホで昨日と違うお店を探します。
そのお店は外観からして雰囲気がありました。老夫婦が営んでいて、映画「たんぽぽ」を彷彿させるようなとても味のあるお店です。期待に胸を躍らせてラーメンを注文しましたが、出てきたラーメンは何の特徴なく、味も40年前から一つも工夫もされていない、ただの中華そばでした。残念ですが完全にこのお店は失敗です。
そして3日目。ちゃんとした尾道ラーメンを食べるラストチャンスです。今日もディレクターはADに対して、歩いて行ける範囲でラーメン屋を探すよう指示をします。
都会では考えられないのですが、実は尾道駅周辺のラーメン店は21時終了のお店が多いんです。この日はロケの終了時間が遅くなり、時計の針は22時を回っていました。
ADはスマホで何店舗も探しましたが、この時間に営業しているお店はなかなか見つかりませんでしたが、やっとの思いでADが一件お店を発見することができました。そこのお店は23時まで空いています。時計を見ると22時15分。まだ間に合います。僕達はお店に向かいました。
がしかし!到着すると看板の灯りが消えていました。今日に限って早めに店じまいをしたみたいなんです。
みんなのテンションが一気に下がりました。でもこのままラーメンを食べずに終わる訳にはいきません。ディレクターはADに対して他のお店はないのかと聞きます。必死にスマホでお店を探しますが最終的にそのADが出した答えは、この遅い時間に営業しているラーメン屋はもう無いでした。
この言葉を聞いて僕のお節介センサーが反応しました!
本当にラーメン屋はもう無いのか?
僕はまず周りを見渡しました。
ちょっと先に1軒のお店が空いています。
近づいてみるとレトロな雰囲気の焼き鳥屋でした。
僕は店内に入って尋ねました。
「すいません〜つかぬことを伺いますが、こちらのお店でラーメンってやってますか?」
お店の女性店員さんは少し困った顔でやっていないと答えました。
そりゃそうです。しかし僕はもう一度質問をします。
「じゃあこの辺りで遅くまで営業しているラーメン屋か、ラーメンを出しているお店はご存じないですか?」
すると店員さん曰く、駅の反対側に居酒屋があってそこのシメのメニューでラーメンを出していると教えてくれました。
店員さんにお礼を言い、外にいたみんなにラーメンが食べれるお店があることを伝えると一同喜びましたが、まだここで浮かれていけません。
居酒屋で出すラーメンが美味しいとは限らないのです。
しかしもう選択の余地がないので、教えてもらったお店へ向かいました。
中に入るとレトロな雰囲気の居酒屋でした。メニューを確認すると、「22時より注文OK!尾道ラーメン」と書いたので迷わずラーメンを注文しました。
待つこと15分。
目の前にラーメンが出されました。
一口、ラーメンをすすると・・・
何ということでしょう〜!
しっかり鶏ガラの効いた醤油スープに大きめの背脂が入っていて、麺もちゃんと平打ち麺で食感が良くスープも絡んで、僕達が望んでいた以上の尾道ラーメンがそこにありました。やっと念願の尾道ラーメンです。
店内は終始、昭和の懐メロとラーメンのすする音しか聞こえませんでした。
僕達はあの居酒屋で食べた尾道ラーメンを一生忘れることはないでしょう。
僕はお節介カメラマンです。
お節介をしたから美味しい尾道ラーメンを頂くことができました。
みんなが喜んでくれると僕も嬉しくなります。
これからも僕のお節介はまだまだつづきそうです。
ご精読ありがとうございました。